2013年11月14日木曜日

【文化人類学】伝統的社会とは何か【昨日までの世界②】

伝統的社会(昨日までの世界)について論じる前に、まずは現代社会(今日の社会)について話そう。

現代社会の特徴①

まず人口が多い。
インドや中国のように人口10億を超えるような国もあれば、ナウルやツバルのような小国でも1万人規模だ。
中にはバチカン市国のように数百人規模のミニ国家もあるが、生活インフラの大部分をイタリアのローマ市に依存している。

現代社会の特徴②

食糧は農耕か牧畜によってまかなわれている。
狩猟採集ではない。
まばらに生息する野生動物を狩ったりするようでは効率がよろしくない。
生産に適した植物を栽培して収穫したり、品種改良して家畜した動物を大量に飼育して食べている。
1万年前に始まった農耕によって、人類は大きな人口を支える食糧確保の手段を得たのだ。

稲作(Wikipediaより引用)
 

現代社会の特徴③

職業がある。
伝統的社会では構成員は大体食糧生産の仕事に携わっている。
槍持ってマンモス狩ったり。
現代社会に住む我々も、前近代までは食糧生産に従事する割合は高かったものの、それでも行政や軍事や学問や商業や芸能など、直接食べ物を作り出さない多様な職業が存在した。
これは特徴②で挙げた効率的な食糧生産方法によって余剰食糧が生まれ、他のことをする余裕があるためだ。

現代社会の特徴④

官僚がいる。
伝統的社会では人口が少ないため、構成員は集まって様々な問題を協議することができる。
しかし現代社会のような巨大な人口をかかえた社会では構成員が一堂に会して議論して、意見をまとめ、管理していくことは困難である。
代わって官僚がわずらわしい行政の仕事を代行している。
民主化された社会では選挙によって選ばれた代議士もいる。

ローマの元老院(Wikipediaより引用)


では続いて伝統的社会(昨日までの世界)について。
人類の社会をその発展度合いによって分類するとすれば、学者の間でも色々な意見があるが、『昨日までの世界』ではアメリカの文化人類学者エルマン・サービスの説を紹介している。

①小規模血縁集団(パンド)

人口は数十人。
ほとんどの構成員は一つあるいはいくつかの家族に属する。

主な食糧獲得手段は大体狩猟採集。
構成員はお互いに良く知っていて、保有する財産にも行使する政治的権力にもさほど差はない。
人類の大半は1万年前までこのような小規模血縁集団の中で生活してきた。

現在でもこのカテゴリに属する人々としてはアフリカのカラハリ砂漠に住むサン人、ベンガル湾のアンダマン諸島人、ペルーのマチゲンガ族などである。

サン人の集落(Wikipediaより引用)

 

②部族社会(トライブ)

小規模血縁集団に毛が生えた社会。
規模が大きく、より複雑になった。
人口は数百人程度。

人口は増えたけど構成員はお互い顔見知り。俺の出身高校は1学年280人で、話したことないやつも居たけれど大体顔と名前は一致するな。そんな感じの規模がこの部族社会である。
人口が増えたので食糧獲得手段は農耕か牧畜である。例外的に生物的生産性が高い(食べれる動物がたくさんいる)地域では狩猟採集も見られる。
農耕をするので獲物を求めて移動する必要がなく、決まった場所に定住する傾向が大きい。

政治的にはまだまだ平等で、中にはリーダー的な存在として「ビッグマン」と呼ばれる人がいる場合もあるが、強い権力を保持しているわけではなく、食糧獲得の手腕や人間的魅力で集団をゆるーくまとめている。

このカテゴリに属する人々としてはアラスカのイヌピアト族、南米のヤノマミ族、ニューギニアのダニ族などがいる。

イヌピアト族(Wikipediaより引用)
 


③首長制社会(チーフダム)

部族社会がさらに発展したのがこれ。
人口は数千人。

この辺から構成員同士が互いのことを知るのが難しくなってくる。
見知らぬ他人という存在が同じ社会の中に生まれた。

首長制社会にはその名の通り、首長という誰もが認める権力者がいて、構成員同士が紛争を起こさないように強い権限を持っている。
その首長の補佐をする役人(この場合「官僚」の原型と定義する)がいて、貢物の徴収だったりもめごとの仲裁だったり雑多な行政業務を務めている。
官僚のように徴税や司法など専門性で分化はしていない。

この辺から構成員の身分の差がはっきりしてくる。

このカテゴリに属する人々としてはニューギニアのマイル島人とトロブリアンド諸島人、北アメリカ先住民のカルーサ族とチュマシュ族などがいる。

インディアン(Wikipediaより引用)

④国家(ステート)

我々が属する社会である。
人口が多く、高度に中央集権化されていて軍事技術も進んでおり、世界史の中で①~③を征服し、服従させ、国家に組み込んだり追放したり、また絶滅させて肥大化していった。
 
そのため現存する小規模血縁集団や、部族社会は生産性が乏しかったり、アクセスの悪い僻地に居住していることが多い。
絶海の孤島や熱帯雨林の奥地、極地付近などである。
 
 
アメリカ合衆国議会議事堂(Wikipediaより引用)
 
コロンブスがアメリカ大陸への航海を行った1492年当時、ヨーロッパやアジアなどでは既に人々は国家の元で生活していて文字や金属器を持ち、集約的な農業を営み、高度な軍隊を持っていた。
その一方でオーストラリアのアボリジニ、アフリカのピグミー族、アメリカ先住民のインディアンなど①~③の伝統的な社会で暮らす人も多く居た。
 
この違いは何なのだろうか。
かっては彼らは生物学的に劣る人種だという考えが広く信じられていた。
帝国主義による植民地化はその考えによって正当化されていた。
 
現代ではさすがにタブーとして上記のような人種差別的な考えは公の場では話されなくなったが、それでも「彼らは生物学的には変わらないけど、文化的に労働倫理が劣っている」などという考えは今でも根強い。
欧米人や日本人が経済的に豊かなのは勤勉だからなどの主張である。
 
しかし本書の著者ジャレド・ダイアモンドはかっての著作『銃・病原菌・鉄』でその差異の原因は地理的条件であると述べている。
栽培に適した植物や、家畜化に適した動物が近くに居たかどうかでその後の歴史の歩みが決まったのである。
 
 
次章からは「伝統的社会」の興味深い事柄について具体的に紹介していきたい。
 

〈参考資料〉


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